焚き火の横で寝る。
「焚き火の横で寝る。」
それに憧れたのは、小学生の時に見た西部劇の映画の中。カウボーイたちがウールのブランケットにくるまって、焚き火のそばに寝ていた。まさか50才手前にもなって、焚き火のそばで寝ることになるとは小学生の俺が知る由もなかったのだが。アウトドアーを始め、キャンプはテントの中で寝るものだと思い込んでいた。シーカヤックでビーチからビーチを放浪するようになって、仲村さんや堀田さん、伊東さんたちがタープの下で寝ているのをみて、そうか、タープの下でいいのかと思うようになった。伊東さんの「テントは本当に寒い場所や悪天候の時に使うシェルターなんだよ。テントの中に入ると外の自然と隔絶されてしまうんだよ。」という言葉がストンと腑に落ちた。私事だが、俺はどこでもすぐ寝れる。テントの中に入ってしまうと、眠りが深すぎて、夜中に風が強くなったり、雨が降っても朝まで気づかないくらいだ。でもさすがにタープの下なら、風が変わったり、今まで見えていた星に雲がかかって見えなくなったり、またその逆だったり。夜中に自然の変化の気配を感じて何度か目覚めるようになった。
またしても私事だが、俺は酒と夜に弱い。ガタイでは想像ができないほど酒が弱く、飲んでしまうと夜は子どもばりにすぐ眠くなる。飯を食って酒をのんで満足するとそのまま焚き火のそばで座った状態でおちてしまっている姿を俺とキャンプしたことある人なら必ず目撃していることだろう。それではもう焚き火のそばで寝てしまえばいいじゃないかとそのまま横になって寝てしまうようになった。寝袋越しに焚き火の熱を感じ、ダウンボールが乾燥してふくらんだふかふかの寝袋で眠りにつく瞬間がたまらなく心地よいのだ。しかしここはモンスーン気候の日本。サボテンがはえる西部劇の中の乾燥した世界と違い、夜は夜露でびちょびちょになる。ひどい時は雨でも降ったのかというくらい濡れている。9時くらいに寝ると決まって夜中の2時くらいにびちょびちょになって、身体が冷えてきて目が覚める。もちろん薪もほとんど燃えて火も消えかけている。そこで残っている火種を起こし、焚き火を復活させる。焚き火の熱を受けて寝袋から、蒸気が立ち登り、徐々にまた寝袋が膨らみだすのだ。頭上にはシリウス、プロキオン、ペテルギウスの冬の大三角形が輝いている。この夜、二度目の寝袋越しの焚き火の熱を感じながら、また眠りについたのだった。